銀鉛カメラの衰退は加速化するばかり。しかしこうしている間にも世界のどこかで怪しい銀鉛カメラが密かに作られているのではないかと想像を逞しくするに充分なインパクトを齎してくれる、そんなカメラを発見した。発見したと言っても、実は知っている人は知っているこのカメラ。最近某オークションにて頻繁に出品されているアイテムなので、ちょっと気になっている方も多いかもしれない。落札価格も1000円前後だから遊び半分で購入された方もおられるだろう。しかし実際に手にしてみると、カメラに詳しい人であればあるほど驚愕せざるを得ない、恐るべき物件であった...
某オークションに出品されていたものを購入したのだが、そこには次のような商品説明があった。

商品名:「スーパーパワーズームカメラ」
●リモコン付なので遠隔操作可能
●セルフタイマー機能付
●液晶ファインダー表示で被写体を分かりやすく表示
●フィルム自動巻上げ
●付属のストロボは、角度を変えたり強度を変えることができます。
●収納用ケースを使用すれば持ち運びラクラク。
●オートズームイン・ズームアウト
●赤目緩和機能付
掲載されている写真を見ると一眼レフのようだが、よく見ると透視ファインダーが付いており、さらにレンズ上部に円形の窓があって、むむっ、これはボルシーCのような二眼レフなのではないかと、珍種発見の予感に血圧が上昇する。取り外しが可能でかなりパワーのありそうな大きいストロボが付属しており、これだけでもお買い得感があると思われるが、やはり気になる点もある。「オートズームイン・ズームアウト」の「オート」とは結局「電動」ズームに過ぎないのではないか? ズームした場合ファインダーはいったいどうなるのか? オートフォーカスだと信じたいが、ひょっとして「フォーカスフリー」?...
実際に手にすればこれらの謎も解けるわけで、まあ安いんだから買ってみようと落札。そして物件は迅速に送られてきたのだった...
梱包を解くと、値段に不釣合いな、そこそこしっかりとしたケースというかバッグが出てきて、その中にカメラは納まっていた。まずビックリしたのは想像していたのよりもはるかに図体が大きいこと。ゼニット212Kよりも大きい。比較が悪い? ニコンF4と同じくらいか。


裏蓋を開けて中身を確認。シリカゲルの小さな袋が入っていた。湿度の高い亜細亜のカメラのようだ。電池(単3電池2個)を入れスライドスイッチをONにすると、いきなり巻き上げモーターが作動。実にチープな音で喧しい。ちょっと悲しくなる... 


気を取り直していろいろな部分を仔細に見てみると、驚くべき事実が次々と発覚した。35-70mmのズームレンズはやはり「電動」で、予感していた通りフォーカスフリー。レンズ部に深度表示が無いので、70mmでどの辺りにピントが合うのか確かめるべく取扱説明書をみたが、被写界距離についての記述は一切無し... 
これは手ごわいぞ。


気になっていたレンズ上部の丸窓はやはりファインダーで、ウエストレベルのレフレックスと透視ファインダーのダブル。ウエストレベルほうは35mmと70mmの視野枠がついているだけ。おまけにボヤーっとしていて暗く、ものすごく見難い。しかし単なる透視ファインダーと思っていたほうは、なんと、ズームファインダーである。しかし周辺がケラれて見えない...


露出制御はオートなのだろうが、目視する限り絞りが変化しているようには見えない。取説にはシャッタースピード1/60〜1/250秒と書いてあるが、これも怪しい。ああっ、フィルム感度のセットができない! ということはISO100固定?、それとも400? これも取説に書いてないぞ! リモコンで遠隔操作って、肝心のリモコンが付いてないじゃないか! 別売か? 別売ってどこに売ってるんだあ!!

ネタの宝庫である。
こんなに使いこなしが難しいカメラがあるだろうか。撮影者はほとんど何も制御することがない、にもかかわらずカメラが自動的に制御してくれるわけではない、人間におもねる所の無い恐るべき頑固な姿勢を貫いている孤高のカメラ... 写真は最終的にカメラが撮るものなのだという厳然たる事実を、使い手は思い知らされる。MADE IN CHINA。そうだろうとも。彼の国の人権意識は民主主義国家のそれとは全く異なるだ。軟弱なニッポン人の私にはフィルムを入れる勇気なんて、湧いてこないのである...
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